慢性下痢症および低アルブミン血症の治療例の紹介

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慢性下痢症および低アルブミン血症の治療例

プロバイオティクスに分類される犬と猫のおなかのサプリAHSの慢性下痢症および低アルブミン血症の犬への使用例を、飼育者に許可をいただきましたので紹介いたします。

東京都青梅市のロデムちゃん、年齢不明、雄

2年を超える期間プレドニゾロンにより低アルブミン血症のコントロールを行い、1年以上炎症性腸疾患としての治療を行うも、コントロールが困難であった例です。
現在はプロバイオティクスのサプリメントのみで低アルブミン血症および下痢症状のコントロールができています。

 

発症からの経過

2015年 夏から時折下痢をする。

2015年9月 腹囲が増大し、他院にて低アルブミン血症(血中アルブミン値1.1g/dl )による腹水貯留が確認され、プレドニゾロン、下痢止め等の投与を開始。

2015年9月 別の病院に転院し蛋白喪失性腸症と診断され、プレドニゾロンを症状や血液検査結果等により増減しながら治療を継続し、下痢の時には対症療法を実施してもらう。

2016年5月 下痢、血便を繰り返し、フードの変更やプレドニゾロンに加え、状況に応じ対症療法を受けるが良化せず。

2016年7月 頻回の血様下痢が1ヶ月以上止まらない為に当院に来院。画像診断の結果はリンパ管の拡張を疑う所見および小腸壁の肥厚を認めた。
病理組織検査を実施するか診断的治療を行うかを話し合った結果、診断的治療を選択することとなり、プレドニゾロンに加え炎症性腸疾患疑いに対しサラゾスルファピリジンの投与を行う。
便の状態は良化し、プレドニゾロンも1日おきの投与で血中アルブミン値がコントロールできる。

2017年5月25日までは便の状態は概ね良好であったが、急に水様性下痢が始まり、5月27日の血液検査にて血中アルブミン値が1.8g/dlと低化しはじめていることを確認。
下痢止めを追加しプレドニゾロンを1日1回の投与に変更。

2017年7月 サラゾスルファピリジンをメサラジンに変更

2017年8月26日膵炎を発症。血中アルブミン値1.9 g/dl 。膵炎の治療とともにプレドニゾロン投与を離脱。

2017年9月 犬と猫のおなかのサプリ AHSを投与開始。併用薬は下痢止めのみ。

2017年11月28日 朝は正常便となった。昼は複数回の下痢。血中アルブミン値1.6 g/dl 。

2017年12月11日 朝は正常便、昼最初の排便は固まってはいるものの、その後は複数回下痢、排便回数は多少減った。血中アルブミン値1.7 g/dl 。下痢止めをストップし犬と猫のおなかのサプリ AHSのみを継続する。

2017年12月25日 朝は正常便、昼排便回数が減り下痢ではなくなる。血中アルブミン値1.6 g/dl 。

2018年1月9日 夜の排便がなくなった。

2018年1月23日  下痢をしなくなった。血中アルブミン値2.0 g/dlに上昇 。

(今までに試されたフード、w/d 、消化器サポート、アミノプロテクト、i/d low fat など)

 

 

犬と猫のおなかのサプリ AHSについて

犬と猫のおなかのサプリ AHSはプロバイオティクスに分類され、その主成分は乳酸菌の1種類であるラクトバシラス ブフネリです。

この特許を持つ乳酸菌は、当院が所在する狭山市に隣接します所沢市の防衛医科大学校で5年以上の期間研究されており、大腸炎抑制作用を持つ事や抗炎症作用がガセリ菌を上回る事などいくつもの学会発表がなされております。
またラクトバシラス ブフネリについて、大阪府立大学はアトピー発症モデルに対する炎症抑制作用を、新潟大学は免疫強化作用によってがん細胞接種に対するマウスの生存率向上についてをそれぞれ報告しています。

 

プロバイオティクス

プロバイオティクスとは人や動物に良い影響を与える微生物、またはそれらを含む製品や食品の事をいいます。
プロバイオティクスとしての乳酸菌などは健康のために摂取する際には、生きた状態で腸に届かなければ効果がないと誤解されている場合が多くみられます。
しかし生菌であっても死菌であっても同じ効果があるという事が多くの菌種で知られております。

 

プロバイオティクスについて理解を深める

善玉菌や悪玉菌の名付け親である東京大学 名誉教授の光岡 知足先生が Japanese Journal of Lactic Acid Bacteriaに2011年寄稿された『プロバイオティクスの歴史と進化』から概要、はじめに、おわりにを抜粋しここに紹介致しますので興味のある方はご一読ください。

概要
20 世紀のはじめ Metchnikoff は、ヨーグルトを摂取すると、腸内に Lactobacillus 菌叢ができ、腐敗菌の増殖を抑え自家中毒を防ぐことができると主張した。これは、「プロバイオティクス」の概念の誕生とみることができる。1920 年代に、腸から分離した菌であるL. acidophilus で発酵乳をつくることが提唱され、 1950 年代には、Bifidobacterium の使用が始まった。これまで、多くの研究者は、摂取したプロバイオティクスは生きたまま腸まで達し、そこ
で増殖し定着すると考えているが、摂取した外来の Lactobacillus や Bifidobacterium がヒトの腸内で生残し、定着することはかなり困難であることが認められた。1970 年代になってL. helveticus と酵母で調製した殺菌酸乳のマウスの寿命および移植腫瘍の増殖における保健効果の研究を行なった結果、マウスに殺菌酸乳を投与すると対照より寿命が 8% 延長し、さらに、殺菌酸乳または乳酸菌の菌体成分には投与菌数に比例して移植癌細胞増殖抑制作用が認められ、乳酸菌は死菌であっても生菌と同等の保健効果があることが明らかにされ、筆者は、機能性食品として新たにバイオジェニックスの概念を提唱した。プロバイオティクス、プレバイオティクス、バイオジェニックスなどの機能性食品は免疫系を刺激し、ストレス・食欲・吸収などの生体制御、ならびに免疫機能や抗アレルギー作用などの生体防御を高め、さらに、生活習慣病を抑える。バイオジェニックスは、プロバイオティクスの進化したものとして、他のバイオジェニックスやプレバイオティクスと組み合わせ、サプリメントとして生活習慣病予防や代替医療として利用されることが期待される。

はじめに
プロバイオテイクス(probiotics)という用語は、最初、 Lilly and Stillwell(1965)が「ある種の原虫によって産生される他種の原虫の増殖を促進する物質」に対して用いられたが、その後、Parker(1974)は「宿主の腸内フローラに有益な影響を及ぼす効果のある動物用飼料添加物」をプロバイオティクスと呼び、「腸内微生物のバランスの改善に有効な微生物または物質」と定義した。さらに、Fuller(1989)はこの定義を「腸内微生物のバランスを改善することによって宿主動物に有益に働く生菌添加物」と改めた。しかし、この概念の起源は百年前に遡る。 20 世紀のはじめ Metchnikoff は、その「不老長寿説」の中で、Lactobacillus bulgaricus を含んでいるヨーグルトを摂取すると、腸内に Lactobacillus 菌叢ができ、腐敗菌の増殖を抑え自家中毒を防ぐことができると主張した。このことは、プロバイオティクス、換言すれば、健康促進のために摂取する微生物とみることができる。なお 、本稿では乳酸菌を“糖を発酵し乳酸を含む多量の酸を生成する非腐敗性細菌”と定義し、Bifidobacterium を含めて乳酸菌として述べる。

(以下本文省略)

おわりに
殺菌酸乳の保健効果が検討された結果、摂取した乳酸菌は、死菌であっても生菌と同等の整腸効果、感染防御、免疫賦活効果、抗腫瘍効果、高血圧抑制効果があることが明らかとなり、「バイオジェニックス」という新しい概念を提唱した。バイオジェニックスはプロバイオティクスの進化したものとして、他のバイオジェニックスやプレバイオティクスなどと組み合わせてサプリメントとして生活習慣病予防や代替医療として利用されることが期待される。しかし、その場合、 1)ビフィズス菌と乳酸桿菌を比較したとき、保健効果に差異はあるか 2)乳酸菌の生菌製品と死菌製品を比較したとき保健効果に差異はあるか 3)同一菌種または同一菌株から調製した乳酸菌生菌製品と死菌製品を比較したとき、それぞれ保健効果に違いはあるかなど、 また、期待される保健効果を得るためにはどれだけの生菌または死菌の菌量を投与すべきか、さらに、重要なことは、各プロバイオティクスおよびバイオジェニックス製品の安全性が保証されることなど、なお、検討すべき多くの問題が残されている。

以上が『プロバイオティクスの歴史と進化』からの抜粋文です。

死菌であっても生菌であっても効果が全く変わらないものが多く存在する一方で、生菌でなければならない菌種もあります。
その代表としては、医薬品であるミヤBM があります。
宮入菌製剤で、この菌は芽胞菌の1種類で、腸管内で発芽、増殖することにより、酪酸等の短鎖脂肪酸や各種代謝産物を産生し、有害菌や病原性細菌の抑制または有用菌を保持し、腸内細菌叢のバランスを改善させます。
よってこの医薬品は生菌でなくてはならないものの代表です。
白石動物病院では、添付文書の薬効薬理に記載されている『宮入菌は有害細菌によるアンモニア、アミン類の産生を抑制した。』という内容を重視し、開業当初より肝性脳症の補助薬として処方している薬です。

尚、犬と猫のおなかのサプリ AHSの主成分は、特許を取得している乳酸菌です。
このプロバイオティクスを白石動物病院で飼育しているおなかの弱い犬や便秘気味の猫に、さらに当院の従業員が飼育するやはりおなかの弱い犬や猫に使用し安全性と効果を確認した後、慢性下痢症に苦しむ来院動物や協力していただけるブリーダーに無料で提供し、その効果をフィードバックしていただいた結果、犬と猫にも良好な効果が確認できたため、動物のサプリメント業者に紹介した犬猫用のサプリメントです。

まとめ

長期にわたる消化器疾患を抱える動物に対し、ほとんどの症例で切れ味良く効いてくれる薬やサプリメントが存在すれば是非とも使用したいところですが、残念ながら今のところそのようなものは存在しません。
犬と猫のおなかのサプリ AHSもすぐに確実な効果が期待できるものではありません。
改善を実感できるまでの時間は与え始めて1週間から数ヶ月まで幅がありますし、効果を感じない例もあるでしょう。
長期間患ってきた事を考慮し、短期では改善があるのかないのかが判断しにくい程度でもくじけず続けていただけた場合に、効果が安定し始める例が出てきます。

今後も、継続して使用をしていただくことによって効果が認められた例について飼育者の許可を得ることができれば、この場において紹介をさせていただきます。

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