腎不全には BCAA

当院では腎不全に際し分岐鎖アミノ酸の摂取を推奨しております。
ところが腎疾患の際にはタンパク質摂取量の制限が実施されることは周知の事実であり、腎疾患とアミノ酸摂取についての質問を受けることが時折あります。
ヒト医療分野において分岐鎖アミノ酸BCAAは腎不全や肝不全の中心静脈栄養に多用されており、その効果が注目されております。
ここでは NPO法人 PDN(Patient Doctors Netwaork)が掲載している中心静脈栄養法、アミノ酸製剤の種類と特徴の記事の一部を紹介致しますので、参考にしていただけると幸いです。

 

1 BCAAについて
BCAAはバリン、ロイシン、イソロイシンなど側鎖が枝分かれしているアミノ酸である。
BCAAは生体の必須アミノ酸の約40%を占め、アミノ酸の中でも栄養学的効果が注目されている。
アミノ酸の需要が増大する侵襲期に、BCAAは筋蛋白分解を抑制し、蛋白合成を促進する。
アミノ酸の大部分が肝臓で代謝されるのに対し、BCAAは主に筋肉で代謝され、エネルギー源になるため、肝機能障害時などにも利用可能である。BCAAの中でも、特にロイシンが筋蛋白合成を促進し、蛋白分解を抑制する。

 

2 腎不全用アミノ酸輸液
腎不全、特に透析導入前の保存期腎不全患者における末梢静脈栄養および中心静脈栄養で用いられる。
腎機能を維持し尿毒症の改善を図りつつ、栄養改善・維持を目的に使用する。
腎不全では腎臓でのアミノ酸代謝が障害され、また治療としての蛋白質摂取の制限により血中必須アミノ酸(特にBCAAとスレオニン)が低下し、ヒスチジン、チロシン以外の非必須アミノ酸は高値を示していることが多い。
安全性、有効性を考慮して、必須アミノ酸を中心に最低限の非必須アミノ酸を配し、E/N比は2.6となっている。BCAA含有量は42~46%と高い。

 

(ロイシンはタンパク分解を抑制し、タンパク合成を促進するため血中尿素窒素であるBUN の上昇を抑えます。)

 

 

 BUNはタンパク質の分解産物です。
そしてタンパク質を最も多く含む臓器は筋肉で、体重の40%を占めると言われています。

 慢性腎不全などの腎臓疾患の場合タンパク質を制限した食事を摂ることが推奨されているため、タンパク質の不足が起こると筋肉の分解が進み血中尿素窒素が新たに産生されるという逆効果なことが起こるとともに筋肉減少症も進行します。

 そこにブレーキをかける働きをするのがロイシンです。
低たんぱく食や無たんぱく食摂取を続けると必ず筋肉の消費が起こりますが、ロイシンを加えると筋肉の分解が抑えられる事が判明しています。
またロイシンの摂取量によっては、運動負荷が必要となりますが筋肉量の増加も期待されます(これは以下の研究とは別の研究です)。

 以下に、ロイシンにより筋肉の分解が抑えられる事を示した菅原貴征博士の学位論文を紹介します。

学位論文題目 : 食餌アミノ酸による骨格筋タンパク質の合成と分解の制御に関する研究

論文の内容の要旨

筋肉の萎縮は活動の低下や疾病の原因となり、生活の質(QOL)を下げる要因となる。 さらに筋肉は体重の40%を占める最大の組織であり、体全体のタンパク質・アミノ酸代謝においても重要な働きを担っていると考えられ、 その量を維持・増加させることはきわめて重要である。 本研究では骨格筋タンパク質の合成と分解の両面の変化から、アミノ酸の摂取の筋萎縮改善効果を検討した。

(1) 骨格筋タンパク質の合成速度の測定法を検討した結果、ラベルアミノ酸の大量投与法では 3-コンパートメントモデル法を利用できないことが示された。 そこで本論文では、大量投与法によりFractional Synthesis Rateを測定して、骨格筋タンパク質の合成速度を評価することにした。

(2) 若齢ラットと成熟ラットに、無タンパク質食にロイシンを1.5%添加した食餌を1週間摂食させ、 骨格筋タンパク質の分解と合成の変化を検討した。 その結果、筋原線維タンパク質の分解速度が減少し、低栄養状態による筋重量の減少が抑えられた。 一方、合成速度が上昇する傾向はみられなかった。 したがってロイシンの摂取による筋萎縮改善効果は、合成に与える影響よりも分解を顕著に制御したことによると示唆され、 筋萎縮の予防・改善において、分解を制御することの重要性を明らかにした。 アレルギーや腎臓病など、食餌タンパク質を多く摂食できない病人でも、ロイシンを多く摂食することにより、 筋肉量の維持が可能であると考えられる。 また、ロイシン添加食の摂食により血中のインスリン、分岐鎖アミノ酸濃度に大きな変化がみられなかったことから、 ロイシンの摂取によりホルモンバランスやアミノ酸バランスを大きく崩すことはなく、 本研究の結果を人間に応用することも可能であると考えられる。

(3) 低タンパク質食(5%カゼイン食)をラットに摂食させ、筋原線維タンパク質の分解速度の変化を検討した結果、 低タンパク質食の摂食によって分解速度が上昇することが示され、無タンパク質食の摂食時と同程度の分解速度となることを示した。 また、無タンパク質食の摂食による分解速度の上昇は、低タンパク質食の摂食では抑制されないことを明らかにした。 さらに、若齢ラットだけでなく成熟ラットにおいても、低タンパク質食の摂食により分解速度が上昇したことから、 筋萎縮の予防のためには、週齢に関わらず一生涯にわたり、食餌タンパク質を十分に取り続けていく必要があると考えられる。

(4) ロイシン添加食の摂食による分解抑制のメカニズムを、各種タンパク質分解系の変化から検討した。 その結果、ロイシン添加食の摂取により腓腹筋中のカルパイン、プロテアソーム活性、 およびユビキチンリガーゼ(Atrogin-1, MuRF1)の遺伝子発現が減少する傾向はみられなかった。 一方、オートファジーのマーカータンパク質であるLC3の活性型であるLC3-IIの発現が、ロイシン添加食の摂食により顕著に減少した。 したがって、ロイシンの摂取による分解抑制にはカルパインやユビキチンプロテアソームよりも、 オートファジーの制御が強く関わっていることが明らかになった。 アミノ酸によるLC3の変化については、肝臓における報告はあるものの、骨格筋における変化は、 本研究により初めて明らかにされたものである。

(5) ラットを低温状態に曝露することにより、褐色脂肪組織において、タンパク質合成を負に制御している4E-BP1が減少することから、 骨格筋組織でも同様の結果が得られることを期待し、低温における骨格筋タンパク質代謝の変化を検討した。 しかし、低温により腓腹筋中の4E-BP1が減少する傾向はみられなかった。 さらに、低温により血中のインスリン濃度は減少し、S6K14E-BP1のリン酸化も減少した。 しかし、骨格筋タンパク質の合成速度は上昇する傾向をみせた。 低温における筋肉代謝の変化は、栄養状態の応対とは異なる可能性があると考えられる。

(6) Lipopolysaccharideをラットに投与し敗血症を誘導して、ロイシン添加食を摂食させ分解速度の変化を検討した。 敗血症により分解速度は上昇し、有意な差ではなかったもののロイシンの摂取により分解速度が減少する傾向(P=0.08)がみられた。 ロイシンの継続的な摂取は、低栄養状態だけでなく、疾病時のストレスによる筋萎縮の進行を予防する可能性が示唆された。

 本研究では主に、ロイシンの継続摂取による筋萎縮改善効果を検討した。 その結果、加齢や疾病で起こりやすい低栄養状態時に、ロイシンを摂食することで筋萎縮が予防できることを示した。 さらにその効果は、骨格筋タンパク質合成に与える影響よりも分解を顕著に抑制したことによることを明らかにし、 その分解抑制メカニズムの一つとして、ロイシンの摂取によるオートファジーの阻害が関わっていることを初めて示すことができた。

2019/04/14追記

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